2015年3月26日付、電波新聞ハイテクノロジー

マイクロコントローラへの期待
現在、あらゆる電子機器の心臓部となるマイクロコントローラは全世界で年間約86億個が利用されている【図1】。その必要性は様々な市場でますます高まり、共通して求められているのが低消費電力化である。

電池やバッテリで駆動する機器(時計、警報器、電動工具など)は動作時間を少しでも長くするために徹底的な低消費電力化が求められている。また、最近では24時間動作する産業機器まで、各種マイコン動作設計での低消費電力化を図り、工場全体の電力消費削減に取り組まれている。このように、あらゆる市場、アプリケーションで低消費電力が望まれているが、同時に性能向上も求められている。このため心臓部であるマイコンには、マイコン自身の低消費電力化と、システム全体の性能を向上するための高効率処理へのニーズが高まっている。
ロームグループのラピスセミコンダクタでは、産業用モータをはじめとする産業機器市場や、白物家電やウェアラブル機器などの一般民生市場において、業界最高水準の低消費電力と高効率処理を両立したマイコンを提供している。今回はこれらの市場の要求に応える、3つのマイコンソリューションを紹介する。
性能アップと低消費電力の両立~16bitオリジナルコア
ラピスセミコンダクタでは自社開発のオリジナルCPUコアでマイコンをシリーズ展開している【図2】。
中でも、処理能力の向上と低消費電力を実現する16bitのオリジナルCPUコアを搭載したマイコンがML620Q504である。これは時計や電卓などの電池駆動機器向けのML610Q400シリーズ(8bitオリジナルCPUコア)をベースにCPUバス幅を2倍、周波数を4倍(4MHzから16MHzへ)、単純計算で処理能力は8倍に向上させつつ、低消費電力は従来と変わらない実力を実現している【図3】。


マイコンが心臓部として機能するのには大別して2つのケースがある。電源が入ったその時から常に機能し動作し続ける場合と、電源は入っているが常に動作の必要なく、必要な時だけ機能し、それ以外はスタンバイをしている場合である。常に動作し続ける場合に求められる消費電力は動作時電流と呼ばれ、W/MHzで表記される。一般的に周波数が高ければ高い処理能力を実現できるが、消費電流も増加するという課題が生じる。こうした課題に対し、ラピスセミコンダクタのオリジナルCPUは、Fetch・Decode・Executeの3段パイプラインアーキテクチャを用い1クロックで1命令を効率的に処理するため、消費電力を犠牲にすることなく処理能力を高め、高いパフォーマンスを実現することができる。またハードウェアによる演算を可能にしたコプロセッサを搭載することで、コントローラとしての制御だけでなく、プロセッシング(演算)が必要なアプリケーションでも低消費電力を実現することができる。また、動作モードとスタンバイモードを制御することで全体の消費電力を下げる方法があるが、その場合マイコンに設けられたいくつかのモードをいかにうまく組み合わせるかが消費電力を下げるキーとなる。一般的には、StopモードやHalt(ホルト)モードと呼ばれているが、ラピスセミコンダクタのマイクロコントローラでは、Haltモードを複数設けることでモード制御を細やかにし、さらなる低消費電力化を可能にした【図4】。

ノイズ耐性~タフマイコンの登場
さらに近年、マイコンには新たな要求が求められている。その中の一つがノイズ耐性である。産業機器はもちろんのこと、一般家電においてもノイズの影響は無視できない。
洗濯機や掃除機のモータや冷蔵庫のコンプレッサ、IH機器のヒータや電子レンジのマグネトロンなどは身近なノイズ発生源である。人体には全く影響のないノイズではあるが、マイコンなどの電子部品にとっては誤動作する危険性があるため十分な対策が必要とされる。一般的には基板上のシールド配線でノイズから保護し、ダイオード部品などでノイズを逃がす対策でマイコンなどの電子部品を保護してきた。
しかしながら、競争激化の昨今、製品開発のサイクルはさらに短縮化され、開発の現場は「新しい機能の開発に資源集中せざるを得なくなりノイズ対策には手が回らない。」「ノイズ対策は過去の方式を採用するため、基板面積の縮小化や部品点数の削減といった基板レベルでのコストダウンになかなか踏み切れない。」といった課題が現れてきている。
「タフマイコン(ML610Q100/ML620Q100シリーズ)」は、こうした基板設計の現状のブレイクスルーになる特長を備えたマイコンシリーズである。主に、電源ラインから侵入するノイズと信号ノイズに対策を施しており【図5】、急激な電位の変化に強い構造をとっている。VDDやGNDの電位は様々な影響を受けて常に微小変動しているが、ノイズの影響を受けたときは急激に変化しそのピークはマイコンの許容最大電圧を超えてしまう。その急激な変化を抑えてピーク電圧を低減させる目的でタフマイコンにはコンデンサを内蔵している。また、同じ現象で信号ラインが急激に変化した場合も、LSI内部へ異常信号を伝搬させないためにピーク電圧をカットするフィルタを内蔵している。その結果、その実力は国際規格「IEC61000-4-2」において最高のクラス4(±8kV)を超える測定限界の±30kVをクリアした【表1】。


システム提案~スマートフォンからウェアラブル、センサノードまで
ラピスセミコンダクタでは2012年にセンサ制御マイコンを開発(量産)して以降、マイコン単体だけではなく、センサと組み合わせた開発環境をソリューションとして提供している。
センサ制御マイコンとしてリリースしたML610Q790/ML630Q790シリーズは、スマートフォン向けのセンサハブ機能を持っている。【図6】、センサの測定値やアルゴリズム演算結果だけをホストプロセッサへ通信することでホストプロセッサの動作を軽減し、システム全体の低消費電力化に寄与している。マイコン自体も、各種センサを効率よく管理するためのタスク制御機構を備え、センサドライバやアルゴリズム処理を効率化、軽量化して消費電力を低減している。これらハード・ソフトの実装により、最適なインターバルでセンサの測定値を取得できるため、キャリブレーションやセンサフュージョン(ローテーションベクトル計算)等の演算やフィルタ処理、乗り物検知(電車、バス、自動車、自転車、歩行、ランニング)やヘルスケア機能(歩数計、活動量計など)を実現できる。

このようなマイコンとセンサと組み合わせたハードウェアソリューション、さらにはドライバソフトやアルゴリズムも含めたソフトウェアソリューションは、スマートフォンのほか、センサを使ったアプリケーションへの応用も可能【図7】である。たとえば民生用途では、ウェアラブル機器にセンサ制御マイコンを搭載し歩数計測や消費カロリ計算した結果だけをスマートフォンへ通信することで、通信回数や一回の通信時間を短縮し消費電力を低減できる。

開発環境
ラピスセミコンダクタのマイコンのほとんどはオリジナルCPUコアで、独自に開発している。
Cコンパイラを同梱し、プロジェクト管理やビルド・デバッグ・フラッシュプログラミングが可能な統合開発環境ソフトウェア、オンチップエミュレータ・リファレンスボードなどのハードウェアが用意されており、いつでも簡単に開発着手できるように準備されている。

今後の取り組み
ラピスセミコンダクタは、これからも得意とする低消費電力技術を基盤に産業機器用途と民生用途向けのマイコン開発を進めていく。また、単体LSIにとどまらず、ユースケースに合わせたデザイン・リファレンスやソリューションの開発提供にも注力していく。